社員の使い込みを父親である社長が穴埋めしても、雑損失にはならない

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社員の使い込みを父親である社長が穴埋めしても、雑損失にはならない
 盗難や横領による金銭上の損害は、所得税を計算するときの雑損控除の中の損失額に該当する。 この損失額は本人または配偶者や扶養親族がこうむったものでもかまわないのだが||。 羽根田商事株式会社は、社長羽根田宮雄宍士一歳〉のワンマン経営だ。長男に跡を継がせよう と、長男雄介(一一干歳〉を経理担当の社員として働かせていた。大学を出てほかの会社で働いてい たのだが、あまり評判がよくないので、父親が引きとった。賭けごとが好きで、麻雀はもちろん のこと、競輪があるとよく会社を故けだしたりして、評判を落としていたのである。

 経理の仕事なら一日中社内にいなければならないし、親元なら少しは落ち着いて仕事をするよ うになるだろうと考えた社長が甘すぎた。

 経理課長がどうも預金の残高が合わないので、よくよく調べたら、雄介がこっそり社長室に入 り込み、預金払い戻し用紙に社長の印鑑を押して、社内の正規の手続きをとらずに、預金を払い 戻していることがわかった。課長は専務と一緒に社長にこの事実を訴えた。

 「それで、雄介が勝手に払い出した金額はいくらぐらいになるのかね」

 課長は答えた。

 「いままでの分で、五百八十五万円になります」

 社長は専務と経理課長が部屋を出ていったあと、雄介を社長室に呼びつけた。

 「お前は会社の大事な預金を勝手に払い戻していたのか」

 社長の聞いに雄介は、黙ってうなずいた。金額は六百万円近くなることも認めた。

「これは業務上の横領で、罪になるんだぞ」

 その日のうちに、雄介は会社を辞めさせられた。専務はなにも辞めさせなくてもといったが、 社長はあいつの性根を叩きなおさなければ駄目だと強行した。社長は、

 「せっかく、みんなが一生懸命働いてくれているのに、息子が迷惑をかけてすまなかった」

 と幹部を初め社員一同に詑び、横領罪で告発することはしない代わりに、自分が被害金額の穴 を埋めるからと、個人の預金から払い戻して整理した。

 専務と課長は相談して、これは横領による被害だから、社長他人の確定申告で雑損控除にでき ないかと税務署に問い合わせた。そうすれば、社長の息子を追いだした自分たちの気持ちがいく らか救われると思ったからである。

 しかし、それは駄目だった。宮雄個人が横領されたときでも、横領した犯人が息子では難しい といわれたのである。社長には同情するが、横領されたのは会社であって社長個人ではない、と いうのが税務署の理由であった。