譲渡原価を過大にしても、記帳の誤りなら認められることもある

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譲渡原価を過大にしても、記帳の誤りなら認められることもある
 不動産業者は不動産を転売して利益を生み出します。この利益の額の計算は売却代金、すなわち譲渡 収入金額から、譲渡原価であるもとの取得価額を差し引いて計算します。譲渡原価が大きくなれば、 利益が少なくなることは、明白です。ですが…

 菱六不動産株式会社は、昭和三十年に設立された不動産の売買の仲介を業とする会社です。 資本金は三億円で、年々着実に発展しています。小さな不動産会社というのは、大抵は他人 の褌(ふんどし)で相撲をとるものですが、この会社はときに自力でビルを建て、それを他に転売する こともしていました。これは何年か前に買っておいた土地にビルを建てて土地ごと売るので、もうけが 多いのです。この場合の利益の計算は、譲渡収入金額と譲渡原価との差額で計算されます。

 ビル自体を売るといっても、たいていは、1000平方メートル(約三百坪)から、2000平 方メートル(約六百坪〉程度の小型のビルです。菱六は神田駅の近くに200平方メートル(約六 十坪〉の建物が建っている土地を持っていました。昭和三十八年に買ったものです。その建物をと りこわし、最近、六階建てのビルを建てて土地ごとそのビルを売ることにしました。 1000平方メートル〈約三百坪)を割る小さなビルですが、切り詰めた建築費でも総工費二億三千五百万円かかったものです。土地ごとこれを四億円である会社に売りました。土地は買ったときの四 倍ぐらいに見積もったので、まあいいところでしょう。

 ところが、当時建築を請け負った古藤建設株式会社と菱六不動産との関係を反面調査した調査官 は、菱六不動産の建築費、つまり譲渡原価になるものと、古藤建設の請負代金との聞に千二百万 円もの開きがあることを発見したのです。菱六不動産のほうが建築費を大きく計上していたのです。 そうなると利益が千二百万円少なくなっていることになります。法人税額だけでも四百八十万円です。帳簿上隠ぺ い仮装があったとして、重加算税30パーセントの百四十四万円もとられることになってしまいました。

 おさまらないのは菱六不動産です。別に本当に脱税するつもりはなかったのですが、よくよく帳簿を調べた ら、古藤建設への支払いのうち、千二百万円が重複して記帳されていたのです。なぜ、そんな 間違いが起こったのでしょうか?さらに詳細に調べていったところ、古藤建設に六回にわたって分割払いしているが、三回目に四千万円支払うときに資金が千二百万円不足したことがあり、そこで社長 個人から千二百万円借入れして穴埋めしたのです。そして、この社長からの借入れ千二百万円 をあとで、社長個人に返済するとき、この金額をまたも建築資勘定に計上してしまったという突 は単純な誤りでした。

 のちに気がついた経理課では、建築費勘定を減らせばよいのに社長借入れを雑益に振り替えて 帳消しにしていたのでした。再調査の結果、単純ミスということで重加算税は取り消されました。