定款で役員賞与を決めてしまうと、法人税を追徴されることがある

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定款で役員賞与を決めてしまうと、法人税を追徴されることがある
 株式会社の取締役および監査役に対する報酬は、定款で決めるか、株主総会で決めなければなら ない。有限会社の場合もこの規定が準用される。一方、法人税法では過大な役員報酬は損金不算入 とする規定がある。これは会社に対する重大な内政干渉とも思われるがーーー。

 伊東工業株式会社は、いまの社長伊東吾作(六十三歳〉が、昭和二十六年に興した会社である。 法人税法に照らして完全な同族会社である。創立当時、まず定款をしっかりつくっておかなけれ ばならないと、詳細な定款をつくった。税務調査があったのは、つい最近である。

 機械加工業でははたして材料費や工賃などが、収入に対して適正なものかどうか、二日間みっ ちり調査を受けたが、別におかしいところはなかった。やれやれと思っていたところ、二日目の 終わりに、調査官に、

 「おたくの役員報酬はどうやって決めていますか」

 と質問を受けた。伊東社長は得々として、

 「うちは定款で決めています。商法どおりゃっていますよ」

 と答えた。定款を見せて欲しいというので、社長は定款を提示した。

 もうすでに三十年も前のものであるから、紙の色も変わっている。定款の第二十三条には、次 のように記載されていた。

 『取締役および監査役の報酬は、次のとおりとする。

 代表取締役月五万円
 専務取締役月三万円
 常務取締役月二万五千円
 監査役月三千円

 これを変更する場合には、商法所定の株主総会の決議を要する』

 代表取締役に対して月五万円ということは、年額にして六十万円である。ところが調査の対象 となった事業年度中に、代表取締役に支給された報酬額は月五十万円、年額六百万円である。

 「社長の報酬は、月五万円なんですね」

   伊東社長はギョッとした。

 「この事業年度では、六百万円を支給しているから、五百四十万円は過大報酬となりますね」

 「しかし、こんな会社で株主総会がしょっちゅうできるわけじゃないし、年々物価も上がる。常 識からいっても、月五十万円ぐらいは妥当なのじゃないですか。むしろ、私は遠慮しているぐら いに考えていたのですが」

 伊東社長は必死に抗弁した。 だが、法規は法規である。定款または株主 総会あるいは有限会社の社員総会で定められ た額を趨えて支給したときは、その超える部 分の金額は損金に算入できないとはっきり規 定されているのである。

 こういわれるとどうしょうもなかった。こ の事業年度だけで五百四十万円が損金不算 入、前年の事業年度では四百八十万円、その 前の事業年度は四百四十四万円が損金になら ないことになった。なんと三事業年度で千四 百六十四万円が法人税追徴の対象となった。

 定款で役員報酬を決めることは危険であ る。定款変更をつい忘れてしまうのだ。むし ろ、役員報酬は株主総会でその都度決議すべ きだという教訓である。