慣習化している「分銭」は売上げ戻し手数料ではなく、交際費科目

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慣習化している「分銭」は売上げ戻し手数料ではなく、交際費科目
 交際政をめぐる問題は多い。基本的な問題はほんとうに交際費なのか、それとも他の費用なのか というところにある。交際政でなければ交際政の損金不算入についての計算もする必要がない。 丸魚有限会社は、近くの旅館数軒に長い間鮮魚を納めている。届での小売りより旅館への売上 げのほうがはるかに多く、年聞に八千万円ぐらいの売上高になる。ところが、魚屋にとっては旅 館の経営者よりも、重要な存在が「板前」である。調理場は完全に板前の支配下にある。その日 その日の料理も、板前のさじ加減でどうにでもなるのだ。

 このことから、魚屋は板前と密接な関係にある。板前のご機嫌を損ずると、高級な魚を買って もらえない。ここで生まれたのが分銭という制度である。毎月の売上高、すなわち丸魚の納品高 に一定割合を掛けた金額を板前に渡すのである。いわゆる売上げ戻しである。これはもちろん領 収書ももらえない。永年の習慣で丸魚は六パーセントを板前に渡してきた。しかし、その何倍か のもうけがあるから大したことではない。

 この分銭を丸魚は売上げ戻し手数料として、全額を経世にして損金にしていた。この事業年度 では、この額が四百八十万円になった。堂々と売上げ戻し手数料という勘定科目で処理していた。青色申告をしているから帳簿だけは、きちんと記帳していた。

 ところが、税務署はこれは交際費だといった。丸魚の資本金は五百万円なので、交際費の損金 算入限度は四百万円である。そこで次のように交際費の損金不算入額を計算された。

(480万円-400万円)×90%=72万円

 いなせで元気のよい丸魚の親父は、黙っていなかった。板前という仕事はいうなれば、旅館で もなかば独立した権限を持っている。だから商習慣として板前に分銭をやるのは、取り決めの書 類こそないが売上げの割り戻しで、いろんな商売でもやっているではないか。これは絶対に交際 費じゃないと頑張った。

 だが、その頑張りの甲斐はなかった。税務署の見解では、板前は職務上たしかに調理について は材料の仕入れから一切の責任をもってやっているし、その権限も大きい。しかし、材料の選択 から調理の責任を持っているということは、旅館の従業員としてのもので、しかも旅館から給料 をもらって働いているのである。だから、旅館と独立した請負的な性格をもつものではない。

 丸魚と木来的な取引関係にあるのは旅館自体である。板前にこっそりと分銭を渡し、しかも旅 館になんにも知らしてもいないのでは交際費と認めざるを得ない。だから分銭については、この 旅館と納品高に応じた売上げ割り戻しの契約をきちんとするか、初めから交際費で落とす必要が あるということになった。