娘に通訳の実力があれば、外国出張に連れて行っても経費になる

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娘に通訳の実力があれば、外国出張に連れて行っても経費になる
 会社だろうが、個人経営だろうが、海外航波焚は税務署にねらわれている。なぜなら、経費でな いとすれば、多額の税金がかけられるからである。とくに同伴者の渡航費が経費になるかどうかの 判定はうるさい基準がある。

 瀬山貿易商会は南米との貿易を主にしている株式会社である。社長の瀬山彦二(五十六歳〉は、 年に二、三回ベルーやコロンビアへ出張する。たいていは単身で行き、言葉の不自由は、現地で 雇った通訳でおぎなっていた。大学の外国語学部を出たには出たのだが、英語とフランス語が少 少わかる程度であった。

 この三月に短大を卒業した一人娘の由子〈二十歳)が、五月に父親がまたベル1へ出張すること を小耳にはさみ、是非連れて行ってくれとせがんだ。

 娘に甘い父親は通訳として連れて行けば、その費用は経費になるだろうと考えた。

 「お前、スペイン語はできるのか、向こうはスペイン語だぞ」
 「ちょっと勉強すれば、なんとかなるんじゃない…」

 由子は神田にある外国語学校のスペイン語科へ通った。三ヵ月の速成科へ入学し、外国行きたさにつられて、めずらしく懸命に勉強にはげんだ。

 社長の彦二は、娘の実力のほどは疑っていたが、ともかくスペイン語の通訳として連れて行く ことにした。そして、五月上旬に出発し、約二十日の出張を無事終えて帰ってきた。

 娘のスペイン語は、案の定、ビジネス面ではまったく役立たなかったので現地で通訳を雇っ た。しかし、パーティーやプライベートのショッピングのときは、けつこう重宝して、親子二人 の旅を楽しんだ。しかしなにぶん、同行したのが若い娘とあって、一人で出張したときの三倍以上 の経費がかかった。彦こはその経費を全部会社の海外渡航費にした。総額四百二十万円である。

 「娘さんの分の渡航費は、経費に認められませんね」

 と税務調査でやんわりやられた。しかし、そうですか、とおとなしくひっこむ社長ではない。

 「通訳として連れて行ったのだから、否認されるいわれはない」

 と突っぱねた。これがいけなかった。担当の調査官は、由子がスペイン語を勉強に通ったとい う外国語学校まででかけて行ったのである。

 「瀬山由子さんという学生は、相当勉強されたのですか。通訳としての能力はどうでしょうか」
 「そうですねえ、三ヵ月ぐらい来ましたかね。通訳はまだまだ…」

 社長の費用分として正味百二十万円は認められたが、あとの三百万円は社長の賞与ということ になった。高い渡航費についたわけだ。「娘の語学力がもう少しあれば…」と彦二は悔んだ。