小さな同族会社の常勤監査役報酬は疑われやすい

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小さな同族会社の常勤監査役報酬は疑われやすい
 妻や怠子を会社の役員にするなど、資本金が何十億円という大会社ではなかなかできないこと が、同族会社ではできる。それは一面で同族会社としてのうま味でもあり、また、欠点でもある。 す 役員に誰を据えるかは社長の考え一つできまる。上手に使えばいいが、下手するとやけどをする。

 岐阜市に武蔵工業株式会社という金属製品メーカーがあった。社長は持丸平治(五十四歳)とい い、祖父の代から続いている。長男正治(二十二歳〉は東京の大学に遊学中である。いずれ父の跡 を継ぐことになっている。東京の大学へやるためには、毎月相当の学資兼遊興資金を送らなけれ ばならない。正治は息子可愛さのあまり、毎月十五万円を送金していた。

 年々上がる仕送り額に、ふと思いついたのは、息子を会社の役員にして、その役員報酬を学資 にあてたらどうだということだった。経理部長に相談すると、学資ではないが、やはり同じよう な会社で、東京にいる社長の息子に、二ヵ月に一度ぐらい帳簿を見せて役員報酬名目で生活費を 払っているところがあるという。

 早速定時株主総会の時期がきたのを幸いに、正治を監査役にし、毎月十八万円の監査役報酬を 出すことにしてしまった。そして、所得税などを差し引いた残り、つまり“手取り金額”を、定  期的に経理部から東京の正治監査役あてに送ったのである。

 かくして、一年は平穏無事に過ぎた。税務申告には役員の報酬について内訳書を添付すること になっている。だいたい、資本金が一千万円にもならない会社で、毎月十八万円も払って常勤監 査役を置いている会社があるだろうか、また、それだけの必要性があるのだろうか。準備調査の 段階で、調査官にこの点についてマークされた。


 とうとう実地調査に入られ、三日間で細かいまちがいは出つくしてしまった。悪質なあやまり は経理上なかった。最後に残ったのは先の正治監査役問題である。

 「監査役は毎日来ておられるのですか」
 「毎日は来られません」
 「ちょっとお会いしたいのですが、連絡はっきますか」

 調査官の鋭い質問に、経理部長は返答に窮した。

 「年齢もまだ二十こか三でしょう。それにしては毎日こられない。連絡も急にはつかない。他に 仕事でもあるんですか」

 ますます、経理部長は窮地に追い込まれた。調査官は社長にも来てもらって、同じ質問をした。

 「しかし、しょっちゅう会社に来なくても、ちゃんと監査役としての努めを果たしているのだか ら、報酬を払うのは当然じゃないですか」

 社長は反論した。

 「だがね。毎月二十五日に東京へ送金している現金書留の郵便費用が、通信費として出ているじ ゃありませんか。会社に来たことなんかないんでしょう」

 社長も経理部長も沈黙した。過去にさかのぼって監査役報酬の全額が社長の賞与と認定された。 商法で監査役を置かなければならないことになっているし、報酬を払ったっていいはずだと、社 長は裁判にまで持ち込んだが、正治という監査役は、学生であり実質的には監査役報酬ではな く、親が負担すべき学資を肩代わりしたにすぎないという理由で、裁判でも負けた。