多額の入学寄付金からさぐりを入れられた産婦人科医

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多額の入学寄付金からさぐりを入れられた産婦人科医
 資産が動けば税金がついてまわると思わなければならない。土地を売ったら多額の税金、財産を もらえばこわい贈与税、いたるところに税金のもとがある。つい最近まで、税務当局は入学寄付金 のもとである親の所得がなにからきているかの追及をしないでいた。

 渡部啓一〈五十八歳)は産婦人科の病院を個人で経営している。ここ数年間の所得は三千万円台 である。所得税や住民税などで六割以上はとられてしまうから、まともにやればあまり残らな い。跡を継がせるのに長男の喜介をどうしても医大にいれなければならない。国立の大学へはと うていはいれる頭ではない。一流の私立医大も駄目。ようやく、新興のB医大の補欠にひっかか った。寄付金を三千二百万門出してくれればなんとかしようということになった。 うらがね

 渡部は親としてなんとかしなければならない。裏金で買っていた株式を手放して二千万円をつ くり、残りは妻のかくし預金を使って、なんとか寄付金を納めて入学を許可してもらった。やれ やれと思っている矢先、友人の医師仲間の会合で、国税局が全国的に網を張って、私立医科大学 に多額の入学寄付金を払った親の所得を調べだしたということを小耳にはさんだ。

 それは、所轄の税務署だけでは規模が大き過ぎるので、まず、各大学に国税局が寄付者名簿と寄付金額を調ベにゆき、一つの大学でも寄付者である親は全国に散在しているので、いったん蒐 集した資料をそれぞれの親の住所地を所轄する国税局にまわし、そして、国税局から殺の所得と 資産状況を調べるように税務署に指示する方式をとっているようだとのことだった。最初は三千 万円以上の寄付金を洗い、次第にランクを下げるということも聞いた。

 渡部はうろたえた。銀行から借りた形にすると安全だとも聞いたので、寄付金の三千二百万円 は取引銀行から借りたことにして欲しいと、支庖長にまで煩んだが、日付をさかのぼることは困 難だし、三千万円をこすと本屈の決裁もとる必要があるので時聞がかかると逃げられた。

 そうこうしているうちに調査官に証券会社の線から株式を売ったことも知られてしまった。こ の株式を取得した源資のことはあとまわしにして、まず二千万円の出所については税務署も納得 するというが、残りの千二百万円はどこから.とうしたのだと聞かれても、渡部は頑として口を割 らなかった。調査官は怒った。それでなくても、税務職員は日ごろから医師に対して良い感情を もっていない。ついに、特別調査官の手にかかって、過去五年分の所得と、資産の動きについて 徹底した調査が行われ、妻のかくし預金が別の銀行にあったこともわかり、その他洗いざらいで 一億五千万円におよぶ所得金額の更正処分を受け、いま七千万円近い所得税を月賦で払う身にな ってしまった。

 息子が三流大学の補欠に入ったばかりに、隠し金が税務署に露見してしまった例である。