事業に関係のある別途預金は社長の所得税の対象になることがある

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事業に関係のある別途預金は社長の所得税の対象になることがある
 日本人の悪い癖は、物事をやるのに右か左かはっきりしないことだといわれる。会社の預金なの か、代表者個人のものかはっきりしないで、税務署をいらだたせて、かえって損することをしてし まうことがある。

 湯井土木株式会社は、一二つの銀行と取引している。社長の湯井彦次宍士一歳)も三つの銀行と 取引をしている。一つだけは会社も個人も同じ銀行だが、他はちがう。だから会社と社長個人を 通じて計五つの銀行と取引していることになる。

 社長の頭は古く、会社のものは自分のもの、自分のものは自分のもの、古い上に欲が深いので ある。もちろん、税金を払うのは大嫌いである。自分の預金で、会社と同じ銀行以外の取引銀行 の取引名義は、ニっとも仮名である。

 とにかくわけをわからなくして、税務署をてこずらせれば、そのうちあきらめてしまうだろう ぐらいに考えていたわけだ。

 土木工事の小さいのは、ちょいちょい帳簿に載せないで、その仮名預金にぶち込んでしまう。 そんなのが年に一千万円は下らない。それをなにに使うかというと、株の売買である。悪運の強い男でもうけも大きい。その預金がふくらむと、もう一つの仮名預金にプールして、今度は不動 産投資である。それも土地は高いので手をださない。マンションを購入するのである。いい場所 にできたと思うと、それを買っておく。一年もすると少なくとも三割増しか五割増しで売れる。 実に確実な投資である。だから、仮名預金は相当な額に増えていた。

 会社でどうしても、新しい土木機械が必要になった。買おうと思ったが、資金繰りをやってみ ると、いま購入代金は都合つくのだが、八百万円の借入れをしないと、あとの資金繰りがつかな い。社長が裏でもうけていることを薄々知っている経理部長が、恐る恐る社長に、個人として八 百万円会社に貸してくれと申しでた。

 「いいだろう。だがわしの名前じゃまずいから他の名前にしてくれ」

 社長の言葉にしたがって、経理部長は架空の名前を使って、社長個人の仮名預金からの引き出 しに成功した。

 好事魔多しというか。うまくいったときにかぎって、いやなことが起こるものである。税務調 査で八百万円の借入先が問題になった。経理部長は帳簿に記載されたとおりの貸主の名前をい い、借用証書の控えも示した。そうやってあくまでも頑張った。調査官はこういうときには、不 かん 思議に勘が働くものだ。よくわかりましたといって帰っていった。

 「助かった」

 と経理部長は、喜び勇んで社長にうまくいったと報告した。三日自に電話がきた。その調査官 が二日間探したが、貸主は実在しないというのである。工事代金をごまかして借入金にしたんだ ろうと追及された。社長の仮名預金もバレてしまったのである。

 跡始末が大変である。もとはといえば会社の工事代金をごまかして、社長が仮名預金にいれた ものであるから、その預金のもとは会社に帰属する。社長個人が動かしてもうけたのは、社長個 人の分だが、所得税は確実に追徴された。