支払い先のわからない小切手を追及された下請け建設会社

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支払い先のわからない小切手を追及された下請け建設会社
 銀行は預金者の秘密を守り、取引先関係の維持に努めなければならない。だが、それにも限界が あると同時に、税務当局には質問検査権という強力な武器がある。誰が袈設して小切手を払いだし たかまで調べられると、完全にアウトになることもある。

 奈良工業株式会社は、先代の時分から、いまは一流の建設会社になった愛知建設株式会社の下 請けである。いまの社長は中村四郎(五十凶歳)、先代から引き継いで十三年目になる。主な仕事は ピルの内装関係だった。五年、六年も税務調査がないと、会社の経理も思いのままに適当にやっ ても大丈夫だと思うようになってしまうものだ。

 前に調査があってまる六年ないままにすぎようとしたとき、税務調査が始まった。初日は上席 調査官が若い調査官を二人連れてやってきた。

 若い二人は上席調査官の指示にしたがって、それぞれ帳簿と倒係書類の内容を吟味した。一人 が材料費と外注費関係を担当していた。その翌日は一人しかこなかった。上席調査官と材料費な どの関係を調べていた調査官がこなかったのである。経理課長はたった一人なので安心した。そ の翌日も一人きりだった。四日目に三人が揃った。

 「課長さんすみませんが、この人たちのほんとうの住所と氏名を教えてくれませんか」 上席調査官が税務署の用筆に、小切手の振出目、小切手番号、金額、裏書人の住所氏名をび勺 しり書いたものを示した。なかには住所の書いてないのもある。金額十万円が最低で、最高は五 十万円、全部を合計すると三百四十五万円になる。経理課長は青白んだ顔で、その用築を見つめ た。

 「実は、銀行でマイクロフィルムに撮ってある襲警を見せてもらい、裏書人にあたる人を訪ねて みたり、所轄の税務署にも頼んで調べてもらったのですが、該当者がないんですよ」 納税者と税務審の攻防戦

 「……」

 「ついでに、ちょっと金庫の中を見せてくれませんか」

 とたたみかけられた。手提金庫の底に三文判が二十数備はいっていた。それを全部用築に押し て、該当者のない裏書人のリストと照合したら、全部が全部その三文判の名前と一致した。 かね

 「なるほど、これを使ったのですね。そして、この金はどこへいったのですか」

 「印鑑ももっていない職人がいるものですから…」

 経理課長は必死で逃げようとした。

 「そんなウソはとおりませんよ。同じ日か翌日あたりに、社長個人の別の取引銀行に入金してい るじゃありませんか」