園児の数が下駄箱の数より極端に少ない幼稚園

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園児の数が下駄箱の数より極端に少ない幼稚園
 私立幼稚園の経営者は、その気にさえなれば、子を持つ親の弱みとミエを逆手にとって利益をあ げることもできる。設備をよくすれば入園者は多い。そのかわり出費も大きい。手近な資金づくり は、園児の数を水増しすることである。

 東京・東長崎の住宅地は、品目は畑だった。いつの間にか次から次へと住宅が建ち、せっせと野 ら 良仕事にせいを出していた農家は、がっぽり土地代金がはいった。パクチで暴力団に吸いあげら れる者もいたが、花井平治(六十三歳)は賢明だった。幼稚闘設立の認可をとって、娘二人に保母 の資格をとらせ、約五00平方メートルの売れ残っている畑を幼稚園にかえた。園舎は.フロック 造りで、遊び場を広くとった。開国早々から満杯になった。

 入園料を当初一人一万五千円とし、月謝は五千円としたが、定員六十人で一年目は赤字だっ た。娘の給料はともかく、アルバイトの保母の給料分だけアシが出た。二年目に入園料を二万円 にして、定員六十人のところ八十人入れた。それでも、入国できなかった子供の親から、なんと かしてくれという要望が絶えなかった。

 三年目には黒字になって、所得税を納めるようになった。花井個人は農業もやっているので、幼稚園経営の所得と合算すると、所得税率は累進するから税金が高くなる。

 こいつはまずい。といって幼稚園を娘名義にすると、娘への贈与になり、娘が贈与税を払わな ければならない。正式に法人にすると監督、がうるさい。まあ、税金のほうをうまくやってのんび りいこうと決心した。一部を二階建てにして子供たちが静かに昼寝ができる部屋をつくり、子供 を預かる時聞をのばした。 かね

 税金をなるべく少なくするのには、はいる金を少なくしておくことである。商売なら売上げを 少なくすることと同じである。保母を一人ふやして、姉娘を園長代理の監督にした。そしてぎり ぎりの九十人を入れた。その年から入園料は一年保育は三万円、二年保育は五万円にした。それ でも設備が良く、遊び場が広いせいか、希望者が殺到した。月謝は六千五百円に値上げした。

 一年間の収入予算は入園料も含めて、一千万円を越した。この他に給食費もあるからまあ幼稚 園としては、中どころである。そして、税金のがれのため、園児の数を帳簿上では六十人にした のである。

 滅多に幼稚閣の税務調査なんてないと、花井はのんきにかまえていた。こうしてさらに二年が 過ぎたが、とうとう税務署が調査にやってきた。にこやかな顔をして庭で遊戯をしていた子供の 頭をなでながら入ってきた調査官は、いきなり事務室に入らず、子供の下駄箱の数を数えた。家 から履いてきた靴がいれてある箱の数を全部読みとって、頭にいれた。九十六人分あった。