美容院などは電気代から売上げ除外を発見されることもある

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美容院などは電気代から売上げ除外を発見されることもある
 美容院は女性にとってかかせない存在である。器具や化粧品などの消粍材料もさることながら、 仕事盆の目安がわかるのは電力料金の消波誌である。そこに気がつかなかった浅はかな女性経営者がいた。

 富島和子(三十五歳〉は、夫を交通事故で五年前に亡くし、小学生の男の子と女の子二人を抱え た。幸い若いとき美容師の資格をとっていたので、会社勤めをしていた夫の退職金と、加害者か らの慰謝料で、実家の近くに美容院を開業した。庖を「トミ」と名づけた。

 夢中で働いた。朝九時に庖を聞くと、夜八時まで客の絶え間がなかった。半年やったら倒れそ うになった。無理もない。いままでは会社勤めの夫の奥さんで、社宅でのんびり暮らしていたの だったから。実家の母のすすめでお手伝いを一人雇一うことにした。そうして一年たち、二年たっ た。家族三人はぜいたくをしなければ、どうやらゆったり暮らせるようになった。助手にも遅れ ることなく給料が払えた。だが、貯えは残らなかった。

 子供達の将来のことも考えると、少しずつでも貯金をしなければならないのだが、それができ なかった。いくらか残りそうだなと思っていると、三月にはいつも税金としてもっていかれてしまった。どうにかならないのかしらと考えあぐねている折も折、組合の会合で耳よりな話を聞い た。「あんたのところ、どのくらい出しているの」「あたしのところは、そうね、三分の二ぐらい かしら」「まあー。うちなんか半分よ」

 なんのことかと思ったら、税金の申告のときに出す収入のことだった。

 おとなしい和子はびっくりすると同時に、天の声をきいたような気がした。三年目には恐る恐 る収入を三分の二にして申告した。だが、税務署からはなにもいってこなかった。次の年もそう してみた。なるほど、いくらか貯金もできた。五年目は思い切って半分にして申告した。

 とある日。税務岩から亡くなった夫と年格好があまりちがわない調査官がやってきた。客もい ることで、屈の隅のほうで帳面や仕入れの伝票や電気、水道、ガス料金を調べて、なにごともな かったように帰っていった。和子はバレなくてよかったと胸を撫でおろした。

 「火曜日はおたくの休みのはずだから、税務署まできてほしい」 と電話があったのは、その翌々目だった。同業者が二、三人きていた。和子の前に呼びだされ た二人は、怒ったような図ったような顔をして帰っていった。和子の番がきた。 おととし

 「おたくの電気の使用量は、一昨年からほとんど変わっていないのに、収入が少なくなるのはど ういうことですか。客数と電気代とくらべても、ちょっと客が少なすぎるんですが」 ちょっと欲を出しすぎたと、和子はしょんぼり一肩一を落とした。