立ち退き料を払う土地譲渡は相続税評価額を使うと所得税が安くすむ

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立ち退き料を払う土地譲渡は相続税評価額を使うと所得税が安くすむ
 土地をめぐる税金問題は数多くある。とくに都会では、古い貸家やアパートを媛して、新しくピ ルを建てたり、マンションを建てたりと毎日が忙しい。家主としては、借家人が他人なだけに、立 ち退き料そのほかでやっかいな税務になる。

 渡部千代吉(六十四歳)は、都心に居を構えていた。自宅の周閣には三軒の貸家がある。戦災を 運よくまぬかれただけに、いかにも家は古い。自分の屋敷と貸家の敷地を合わせると、六五0平 方メートル(約百九十七坪〉になる。大手の不動産会社がこれに目をつけた。A不動産は三・三平 方メートル当たり九十万円で買うという、ちょっと安いと、初めは売る気のなかった千代吉はで きとうにあしらっていた。

 ところが、今度はニヵ月もしないうちに、B不動産が百十万円で買う といってきた。なんと総額で二億一千万円を越える金額である。これだけあればどこか静かな郊 外に立派な屋敷をつくれる。余ったら軽井沢あたりに別荘も買えると踏んだ。だが、税金は一億 円を下るまいと思い、おいそれとこれにも返事はできなかった。しばらくすると、A不動産がま たやってきて、百三十五万円でどうだというのである。心を動かされた千代吉はとうとう売る決 心をした。

 さて因ったのは、貸家のことである。この三軒に立ち退いてもらわなければどうにもならない。 弁護士を通して立ち退きの交渉を始めた。A不動産の弁護士なので、実費で引き受けてくれるこ とになっていた。しかし、借家人がそうおいそれとは動くまいと思っていたら、約一一一ヵ月の交渉 で一軒あたり立ち退き料七百万円で話がついた。弁護士の謝礼は四十万円だった。自宅の取り壊 しゃ、貸家の取り綾しは会社でやるというので心配はない。ところで、弁護士の費用は譲渡に要 する経費となるが、立ち退き料はどうなるのか。

 昭和二十七年十二月三十一日までに取得した土地建物については、譲渡代価、この場合は二億 六千五百九十五万円の五パーセントを取得価額にできることになっているので、一千三百二十九 万七千五百円が取得価額になる。もちろん取得は戦前だから、こんなにかかってはいない。これ に立ち退き料をプラスして取得価額にしてよいのかというと、それはできない。五パーセントを 適用するときは、すべてを含んでということなのである。

 それでは五パーセントを取得価額とし ないで、支払った立ち退き料を生かすときはどうするのかというと、昭和二十八年一月一日現在 の相続税評価額を使えばよいのである。これに立ち退き料の合計額を加えて譲渡のときの取得価 額としたほうが、取得価額が大きくなる。結果的には所得税が安くすむならば、これによったほ うが得である。千代吉もそうした。

 立ち退き料をもらったほうは、移転費用に充てた残りの金額が一時所得の収入金額になった。