留守番代わりに家を貸して家賃をもらうなら、必要経費を目一杯計上せよ

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留守番代わりに家を貸して家賃をもらうなら、必要経費を目一杯計上せよ
大会社になればなるほど、全国あっちこっちに転勤させられます。マンションや自分の持家に住ん でいるときには困ります。空家にしておくわけにもいかず、誰かに留守番代わりに住んでもらい、家賃 をなにがしかもらうことがよくあります。

 波川保夫(四十三歳〉は一流メーカーの技術者です。独身時代には三、四ヵ所の工場を転々と しましたが、結婚してからの十二年はずっと東京の本社勤めで、技術部第二課長に昇進しました。親 が建てた土地付の住宅に住んでいました。両親はすでに他界し、夫婦に子供二人の平穏な生活でした。 ところが、苫小牧に新しい工場をつくることになったので、将来の工場長という含みもあっ て、新工場の建設事務所長として赴任せよとの内示がありました。行けば五年は頑張ってもらわねば ならない、帰ってくれば部長の椅子が待っているとおだてられて行くことになったのですが、困ったのは いま住んでいる家のことでした。

 女房子供も一緒に行くというので空家になってしまう。 そこで、大学時代の友人に帰ってきたら明け渡すという約束で、留守番代わりに貸すことにし ました。普通なら月五、六万円の家賃はもらえる家でしたが、事情が事情なので月三万五千円の家賃と決めまし た。年に四十二万円です。もちろん敷金なんかもらいません。ともかく、税金のことなど考えずに、あわただしく新任地へ赴任しました。家賃はその友人が毎月きちんと送金してきました。

 二年たって税務著から呼び出しがきました。あなたの所得についてお聞きしたいことがあるということな のですが、会社から給料とボーナスをもらっている以外に、他になんの収入もないから大威張 りで行ったところ、あなたは東京で家を貸していませんかと聞かれたのです。彼は抗弁しました。

 「あれは留守番代わりで、ほんの気持ちだけの家賃をもらっているだけですよ」

地方の税務署では、わざわざ東京からまわってきた資料はとくに重要視し、課税実績をつくる のが通例です。東京の資料調査網は実に整備されていて、あらゆる資料を思いもおよばない方 法で集めています。運悪く波川が家を貸して家賃をとっているということがわかってしまったので す。あと三年したら東京へ帰れると張り切っていたのが、とんだところで頓座してしまいました。

 過去二年分の家賃収入を基準にして、必要経費として二割しかみてくれず、年三十三万六千円 の不動産所得があることにされ、それ相当の税金を追徴されました。来年からはきちんと申告してく れ、そうしたらもう少し経費をみてあげましょうといわれましたが、波川にすれば留守番代わりなの で断りました。収入があれば税金はつきものなのです。

 留守番代わりだから安い家賃で貸したといっても、不動産を貸してなんらかの対価を得ている ということと、留守番代わりであることはかかわりがありません。初めから必要経費を目一杯計上し て、不動産所得の金額を少なくすることを考えたほうが利巧だったのです。