帳簿類と家計簿や預金通帳を一緒にしておくとヤブへビになることがある

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帳簿類と家計簿や預金通帳を一緒にしておくとヤブへビになることがある
 税務調査の質問検査権の範囲は広い。納税者本人を中心にして、金銭や資産の動きはどうなって いるのか、また、なにかありそうだという疑問の段階でも調べられる。家族の預金などは税務署が もっとも興味をそそられるところである。

 湯口武彦(四十三歳)は、町の雑貨屋さんである。雑貨屋といっても、小さな町なので、よろず 屋といったほうがよい。酒や各種の食料品を除き、たいていの日用品を売っている。最近では週 刊誌まで並べている。結構店ははやっていて、毎月二百万円ほどの売上げがある。

 武彦は青色申告をして商売に励んでいた。今まで税務署からの調査など受けたことがない。税 務署が調査にやってきたのは、商売を始めて七年目のことである。税務署のある町から電車で三 時間も離れている片田舎なので、調査にくるときはいつも二、三人が町の旅館に泊まり、二日ぐ らいで手分けして目ぼしいところを調べるという方法をとる。

 予告もなしに、武彦の屈にやってきた。ちょうど武彦がでかけて留守のときであった。妾のき く会干九歳)が一人で店番をしていた。

 「帳簿はどこにおいてありますか」

 調査官は入るなりいった。きくは、店の陥の棚を指した。家計簿も一緒においてある。帳簿を とりに棚の方へ行きかけた調査官のあとから、きくは走るようにして家計簿をとりに行った。

「それはなんですか」
「家計簿です」
「参考までにちょっと見せていただけませんか」

 いやだといえばかえって怪しまれる。きくは仕方なく提示した。店の帳簿から出ている店主貸 しにあたる事業主勘定、つまり生活費の支出だが、それよりも家計簿の方は毎月十万円ぐらい多 く生活費が使われていることを物語っていた。

 古い店なので、レジスターはない。現金はどうやって保管しているのかと聞かれて、きくは古 い手提金庫を持ち出してきた。

 「中に入っているものを、ここに並べて見せてください」

 といわれ、きくはまず現金を勘定させられた。これは現金出納帳の残高と大したちがいはな い。ほぼ正確であった。ところが、この金庫の中に、店用の預金通帳、武彦個人用の通帳、そし て、家族の通帳も一緒にゴム輪で束ねであったのだ。その上、まずいことには家族の定期預金の 証書が十数枚も出てきたのである。きくは青くなった。

 『なんだって、こういうときにかぎって亭主が店を留守にするんだろう』きくは怒りがつのった。

 家族名義のあまりに多すぎる預金をみれば、そこに、調査官も脱税の匂いを強く感じるもの だ。調査官は湯口が青色申告会の役員のくせにおかしい、明日は農協に行って湯口家の預金を全 部洗いだしてみようと決心した。