架空領収書を書いてもらった礼金は経費にはならない

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架空領収書を書いてもらった礼金は経費にはならない
 建設業関係や不動産業関係の業者には、リベートのようなわけのわからぬ金の動きが多い。その 他の業者でも外注先や下請けに払いもしない経費を払ったように見せかけて、架空の領収書をつく らせて、リベートをつくりだすのはよくやる手口である。

 池上工業株式会社は、機械部品の製造を業とし、開業以来三十五年になる。二代自社長の池上 英夫(四十五歳)は、二代目のいわゆるボンボン。社業にも専念はするが、ともかく遊び好きの男 である。社長としての報酬は、先代の時代からいる専務のにらみがきいて、月額五十五万円にお さえられている。これは全部家計費として、奥さんに渡さなければならない。

 堂々たる会社のためのつき合いの費用は、なんとか会社から出せるが、そうでない交際費や遊 興費にはほとほと困り抜いた。ごく懇意な下請けの社長を口説いて、ときたま五十万円とか三十 かね 万円といった領収書を書かせて、その金を経理から出させて充当していた。そのために経理課長 を抱き込み、いくらかっかませていた。これは個人のポケットから出していたから問題はない が、あるとき、にせの領収書を出してくれる会社の社長に御礼だといって十万円払った。しか も、この十万円は会社の経理から領収書なしで出ていたのである。彦左衛門役の専務は営業には 強いが、経理に弱い。毎月試算表がまわってくるが、めくら判である。

 天網依依疎にして漏らさずの言葉どおり、税務署の調査でこの礼金十万円が問題になった。食 らいついたら離さないのが、最近の税務調査の傾向である。経理課長の説明では、この会社には 日ごろ厄介をかけているから、たまにはその礼をしてくれという社長命令で出したという。調査 かね 官は相手先の会社に照会した。なんと、そんな金は入っていないというのである。

 そこで、調査はその下請け会社との関係について、一段と深度を深めた調査が行われることに なった。たしかに取引はあるが、池上工業では払ったことになっている五十万円とか三十万円に ついて、何回にもわたってその会社の入金になっていないものがある。今度はその下請け会社の 売上げの脱洩ではないかということになった。三年間にわたって千二百万円の売上げ脱洩となる と大きい。池上工業がもらっている領収書の番号を、丹念にチェックしていったら、下請け会社 の領収書控えがその番号分だけ破かれていたのである。

 追いつめられた池上社長は、ついにほんとうのことを白状しなければならなくなった。こうな ると、池上工業は経理を仮装していたことになる。当然青色申告は取り消された。三年間で千二 百万円の架空経費は全額否認されてしまい、この分は池上社長に対する賞与となって所得税を追 徴されることになった。もちろん、法人税については重加算税三Oパーセントがかかった。相手 方の社長に渡した礼金十万円が発端になって経費性を吟味されたのである。