グループ会社間の土地ころがしで利ざやを稼いでいた不動産屋

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グループ会社間の土地ころがしで利ざやを稼いでいた不動産屋
 商品の販売では、メーカーから問屋へ、問屋から小売広へ、小売広から消費者へという流通機構 になり、利益が各段階で積み重ねられる。この原理を応用するのが土地ころがしだ。

 栄不動産は子会社を二つ、孫会社にあたる子会社の子会社をこっ、計四社の傘下会社を持って いた。栄不動産は資本金一億円のきちんとした会社である。子会社の一つである山川土地は、資 本金三千万円で、これまたピルの一角にデンとした事務所を構えている。

 しかし、土地を売るときの新聞広告では、「売主」を販売実績もあり、信用もある栄不動産の 名前で。「販売会社」(代理店〉は、H業務提携υ と称して、子会社を並べるやり方だ。が、しか し、現地へ行くと、孫会社の若い社員が客にべったりくっついて売り込みをはかる。要するに、 孫会社は栄不動産の営業課のようなものである。

 あるとき、都市近郊の山を造成した宅地の売り出しがあった。本田さんは三二0平方メートル を三千五百万円で買う契約を販売会社の西田不動産と結んだ。契約金として三百万円を払い、残 額は登記後ということにした。ところが、いっこうに登記が済んだという連絡がない。業を煮や して、もらった名刺の西国不動産へ電話を入れたが要領を得ない。不安に思った本田さんはすぐに警察に被害届けを出した。

 このことが新聞にも小さく報道された。しかし、昨今、不動産業は国税庁の重点調査業種に指 定されている。当然、税務署も見逃すわけがない。調べて見ると、その山全体は栄不動産が所有 しているもので、山川土地か別の業者に開発させ、さらに実際の販売は、西国不動産が受け持つ という格好になっていることがわかった。この土地について、税務署の調査結果を整理すると、 それぞれの会社聞の取引値段は次のようになっていた。

 栄不動産←山川土地へ(二千三百万円)

 山川土地←西田不動産へ(三千百万円。造成費を含む)

 西田不動産←木田さんへ(三千五百万円)

 当然、これらの取引は売買契約書だけ。現金を動かさず、少しずつ値段をつり上げる手口だ。 ところで、本田さんの苦情に、西田不動産が要領を得なかったのは何故か。突は、この会社は 別の会社の事務所に電話だけを置いていたいわゆる幽霊会社だったのである。この会社について も、税務署は調査を行ったが、電話もすでになく、実体がなかった。

 一方、普察の調査によると、現地で販売を担当している社員というのは、アルバイトで臨時に 二、三日雇われている口のうまい連中で、ひと仕事終わるといくらという請負口銭をもらう仕組 みになっていた。もちろん、本田さんの契約金はその連中に持ち逃げされたのである。

 本田さんの事件が発覚するまで西因不動産は、同様の手口で販売利ざやを稼いでいたが、 を契機に税務署にも追い打ちをかけられることになった。

 税務調査が進み、子会社二社の役員の過半数は栄不動産の役員がかね、それぞれの子会社から 役員報酬を得るばかりでなく、ふんだんに交際費の二重取りをしていることがわかった。親会社 の人事管理が孫会社までゆきとどかず、上手の手から水がもれたわけだが、子会社はもっとあく どかった。孫会社は長く続けて二年、ひどいのは半年でつぶして、利益を霧散させていたのであ る。結果、栄グループが多額の税金を追徴されたことはいうまでもない。