大豆の仕入れと売上高との食いちがう豆腐屋

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大豆の仕入れと売上高との食いちがう豆腐屋
 豆腐屋にとって、大豆は主原料である。税務署は豆腐屋の調査のとき、かならず大豆の仕入れ数 設を調べる。これが一番大事なとっかかりなのである。こういうことはわかっているタセにヘマを やった豆腐屋がある。

 沼田源吉〈五十五歳) は、親の代から東京・神回の須田町で豆腐屋をやっている。自家製の豆腐 なので、毎日、予約で手一杯の繁盛ぶりであった。

 源吉が東京・三既に十世帯はいれるちょっとしたアパートを建てたのは、一年ほど前だった。 総工費が約二千万円だった。建ててすぐに税務署から「お尋ね」がきた。半分は銀行から借りて 払い、あとは五年で払うことにしていると返事をした。これは実はウソであった。

 即金で払うから安くまけろと、さんざん建築業者をたたき、契約時に五百万円、棟上げのとき に五百万円、引渡しを受けてすぐに残金一千万円を、それも現金で払ったのである。銀行からの 借り入れといったのは、自分の所得のごまかしを知られることを恐れたのである。

 源吉の意に反して、税務署は源吉が借りたという銀行に照会した。銀行は貸したおぼえがない という。これは怪しいとにらんだ税務署は建築業者の所在地を所轄する税務署に依頼して、こん

 どは源吉の建築費の支払い状況をも調べたのである。  

 「あの親父さんには参りましたよ。現金で払うからまけてくれとさんざんねばられて」 という建築業者の話だった。金の出所を調べるため、税務署は、実地調査をする前に現況調査 もやることにした。

 不意に調査官にやってこられたとき、源吉は留守をしていた。萎の八重ハ五十歳〉が応対をし た。まず、売上げをしまっておく手提金庫の中を調べられた。なんと三十五万八千九百五十九円 という、豆腐屋にしては多額の現金があった。

 「おたくの豆腐はなかなか評判がよいようですが、大豆一俵でどのくらいの豆腐ができるんです 納税者と税務署の攻防戦 か」

 「そうね、一日に二俵は使うから、千二百丁はできるでしょうね」

 これで決め手ができた。三日おいて実地調査が始まった。大豆は相場の変動がある。仕入れ値 段にでこぼこがあるが、仕入れ数量は仕入れ先が一ヵ所しかないので、適確に把握できた。小さ な広にしては大変な量であった。この一年間に七百五十俵も使っていた。豆腐の丁数にするとな んと四十五万了になる。小売り値段一丁五十円とすると、年間の売上高は二千二百五十万円にな らなければならない。それが申告の上ではなんと千五百万円にしかなっていない。源吉は、アパ ートの建築費を値切ったばかりに、税務署ににらまれてしまった“愚かさ”を悟った。