計数器で客の出入りをチェックされたパチンコ屋

昭和の節税対策  > 納税者と税務署の攻防戦  > 計数器で客の出入りをチェックされたパチンコ屋

計数器で客の出入りをチェックされたパチンコ屋
 税務署は売上げを落としていた事実をつかむために、証拠資料を外部で控えることがある。パチ ンコ屋の申告した売上げと、税務署員が広の外で計数器で計算した客の数を根拠にした推計売上高 とを合わせ、食いちがいを発見するのである。

 不況に強い商売の一つにパチンコ屋がある。二、三百円でジャラ、ジャラと玉をはじきだした り、とられたりしてタパコ一箱とか、みかんの惟詰一個を獲得して、せいせいした顔をして家路 を急ぐ。ささやかなサラリーマンのうさ晴らしだ。

 加井五郎(四十五歳)が五年ほど前に、二千万円の権利金で、韓国人の経営者から譲り受けた店 は、サラリーマンの住宅地をひかえて開店早々から、よくはやっていた。脱サラ五年目の加井 は、いくつかの商売をやってみたが、うまくいかなかった。親戚を狽り、銀行に頼り、高利貸し にも借り、ようやく二千三百万円の資金をかき集めて、改装開店にこぎつけた脂である。こわい のは高利貸しと税務署だった。税務署では、彼の店は近くにあるパチンコ屋にくらべて売上金額 の割合に景品代がかかり、人件費が多いのに、不審をいだいた。

 税務署は、午前十時の開店時から一日五人交替で午後十一時の閉居まで、店のものに勘づかれ ないようにして、出入り客数を数えあげたのである。これも一日だけではない。三日おきぐらい に三回ゃった。雨の日はちょっと客足は落ちたが、一日に少なくとも五百人ぐらいの客がはいる ことがわかった。台数が百台近いから、常時店の中は混雑しているというほどではなかった。し かし、年中無休を売りものにしているので、一年間、三百六十五日で約十八万人の客数と推定さ れる。少なく見ても一人が一日一一一百円の玉を買うとしても、一年間の水揚げは五千五百万円近く なければならない。それが四千万円ぐらいの売上げしか申告していないのである。

 ある日、二人の税務署員が午前十一時に乗り込んだ。キャッシャ一一ヵ所なので、二人は別 別にキャッシャーを押さえた。キャッシャーは、レジでいちいち売上げを打ち込んでいる。すで に五十人近い客が入っていたが、レジの客数と売上げはだいたい一致する。これが一致しない と、店主として従業員の管理ができないことになるから、これだけはやかましい。あとは、売上 げを正確に記帳しているのかどうかを調べることになったのだが:::。 うりだめ

 税務署員の追及でようやく事実がわかった。なんと、毎日のレジの記録と売溜の現金は、店の 奥に持ち込まれるには持ち込まれるのだが、加井の萎富子〈四十歳〉がそれを受け取ると、記録と 現金の在り高をたしかめてから、レジ係を帰し、まずレジの記録用紙は焼却するために家に持 ち帰り、三万円を売溜から自分の財布に入れ、残りを近所の銀行に預けていたのであっ た。